鞆の浦には、まるでここだけ時間の速さが違うかのような、ゆったりとした時が流れています。晴れた日の朝は、南東の方角に開いた港の向こうから、朝日を受けて赤や金色に色づいた海が歩を進めるようにじわりじわりと近づきます。日中、太陽が高い時間帯は真っ青に染まった空と海がどこまでも広がり、日が傾き始めると、ほのかにオレンジ色を帯びた陽光が鞆の浦のノスタルジックなまちを温かく包み込みます。まちの北西に山々を抱く鞆の浦は、日暮れの時間が少しだけ早く、太陽はまちを赤く染め上げる前に山の向こうへと沈んでいきます。日の出とともに目覚め、日の入りとともに眠るまち、鞆の浦。ゆるゆると流れる時に身を委ね心軽やかに過ごせば、いつの間にか忘れかけていた“自然のリズム”を取り戻せるかもしれません。


鞆の浦の朝は日の出とともに

古く万葉の時代から、日本有数の港町として栄えた鞆の浦。漁船の数は少なくなったものの、今でも鞆の浦の漁師たちは日の出とともに、季節ごとに顔ぶれを変える魚を捕りに漁に出ます。晴れた日の早朝、鞆の浦の港に出れば、朝日に染まる海を横切る漁船の姿を見られるかもしれません。波のない海に引かれた航跡は、まるでシルクのシーツに伸びるステッチのよう。浮かぶ島々のシルエットと、その中を悠々と飛び交う海鳥たちが、一幅の絵のような風景を美しく飾り付けます。

鞆の浦の漁師 – 瀬戸内の海の幸を届け、未来に繋ぐヒーロー

日の出が美しいまち、鞆の浦

南東に海、北西に山という独特の立地が特徴的な鞆の浦は、日の出のビュースポットとしても知られています。中でも一番のビューポイントは、『医王寺』の先の長い階段を登った先にある『太子殿』。青々と茂る樹々がそこだけぽっかりと開けて、見える限り遠くまで広がる穏やかな瀬戸内海を眼前に眺めることができます。海の向こうから太陽が昇り始めると、さっきまでネイビーブルーだった空に少しずつ赤が差し、深い藍やパープル、ピンク、オレンジ、ゴールドが混ざり合った幻想的なグラデーションで空を染めていきます。美しい日の出に出会うためにぜひ宿泊し、日の出前のハイキングに出かけてみてください。

坂道の先には絶景という名のご褒美が!「医王寺」

石段の先に待つのは鞆の浦を見渡す最高の絶景 – 医王寺(太子殿)

ゆったり流れる“鞆時間”に身を委ねて

太陽が昇り、青い空と海に包まれる日中は、鞆の浦ならではののんびりとした時間を満喫できるゴールデンタイム。『常夜燈』の周りで繰り広げられるご近所さんトークに参加したり、『雁木』に腰掛けてたゆたう水面を眺めたり、『波止』にごろんと寝転がったり……。日向ぼっこ中の猫につられて大あくび、なんて時間を過ごせるのも鞆の浦の魅力。時計を気にせず、気の向くままに“素顔の鞆の浦”を楽しめば、まるで自分の時間を取り戻したかのような感覚に包まれます。

STORY11 近代の港湾設備 江戸時代の趣を残す絵画のような港

まちが静かに眠る夜

鞆の浦はまち全体が南東の方角に向いているため、夕陽は早々に北西の山々の向こうに沈んでいきます。その頃にはほとんどの商店が営業を終え、小さな港町は長く静かな夜の底に身を沈めます。あとに残るのは、ぽつりぽつりと光る街灯、家々の窓から漏れる明かり、常夜燈のともしびと、水面に映る月明かり。そんな中でも、夜に明かりを灯す店がふたつみつ。地元の人に紛れて過ごすナイトタイムは、いつも以上の特別感があります。潮風を感じながら、夜の鞆の浦を散策するも楽しいものです。

ちょっと特別な鞆のナイトタイム – 鞆町カフェー/454、MIL GRACIAS