コーナーサイン

ひとつひとつに知恵がぎっしり
伝え継がれた匠の技

鞆では、古い建物を解体し、その解体した材料を再利用し新たに建物を新築するやり方が繰り返されてきました。
古い材料を再利用するための方法も含めて、鞆の歴史的な建築物には多くの伝統的な技法が使われています。

伝統的建造物の復原修理

鞆の建物の多くは、建築された後何度も改築や増築、使用される用途の変更がおこなわれています。現在皆さんがいるこの建物は、明治時代初期に建築されたと思われる町家だった建物を復原修理したものです。復原修理にあたっては、柱や梁などの材料に残された加工の跡や風雨による浸食などを調査し、建築当時の姿がどのようなものだったのかを確認しながら工事を進めました。

鞆独自の技法

この建物の柱には、鞆独特の継手が使われています。継手とは、二つの部材をその軸方向に継ぐ方法のことです。ほぼ同じ長さの柱を継ぎ合わせて使用されていたことから、海運が発達していた鞆では昔から木材も一定の長さの規格品が流通していたものと考えられます。
修復修理の流れ
建設された時に使われていた木材や瓦等の建築材料には、加工された時代や方法といった貴重な情報を知る手がかりが多く残されていることから、さまざまな技法を用いできるだけ元の材料を残して復原修理がおこなわれました。この建物では、新しい材料や元の材料の補修跡には着色をせず、修理跡を分かりやすくしてあります。
どんな所が修理されているか探してみてください。

体験用継手

使い終わったら元の位置に戻してください

大工

大工の技

鞆の建物には、木材を無駄なく利用するため、色々な工夫が施されています。腐食した部分だけを取り除いて新たな材料で補修する「矧木」や柱の根本が傷んだ場合に使用する「根継ぎ」、古い材木の穴を埋めて利用する「埋木」などの技法があります。

根継ぎ

伝統的建造物の柱の根本部分は、基礎となる石に乗っており、地面に近いので雨水やシロアリの被害を受けやすい部分です。柱全体を取り換えるのはもったいないので、根本部分の傷んだ部分だけを取り換えるための手法である「根継ぎ」という技法を使います。また、柱の根本と基礎となる石としっかり密着させるため、柱の下面を石の凹凸に合わせて加工する「ひかりつけ」という技法が用いられています。

矧木

柱や梁等の側面に損傷や腐食がみられる場合、その傷んでいる部分のみを除去し新たな材料を接着し補修する手法です。同一の樹種を使用し木目を合わせ接着材を用いて元の材料と一体化を図り、古い材料をできるだけ残しながら補修をおこないます。

埋木
古い木材を再利用する場合、以前の加工により穴が開けられていることがあり、人の目に触れる位置にあるものは、同一の材料で木目を合わせて埋めることで、古い加工跡を目立たなくして使用します。埋木を含め部分的な補修をする場合、新たに付け足す部分の材料は時間の経過によって縮んでしまいます。そのため、新たに付け足す材料は、あらかじめ縮むことを想定し、元々の材料よりも3mmほど大きく加工し取付をおこないます。

左官

左官の技

伝統的な建物に使われている土壁の種類を大きく分けると、柱と柱の間に土壁を塗り柱材が表面に露出している真壁と、柱も土壁で覆われた大壁の2種類に分けられます。大壁は柱ごと土で覆われており、真壁に比べ耐火性能が高いため、土蔵などによく使われています。

つたかけ

大壁をつくる時に、土壁の下地となる小舞という竹を取り付けるため、柱の外面に刻みをいれたものを「つたかけ」といいます。柱の刻みに小舞をひっかけ小舞を固定している釘にかかる荷重を減らすことで、土壁を落下しにくくする工夫です。

漆喰塗り

漆喰には、石灰岩を主原料とする「石灰漆喰」と、貝からとれる貝灰を主原料とする「貝灰漆喰」があります。

鞆で見られる左官

鞆では、石灰を主原料とする漆喰が使われています。石灰漆喰は、消石灰にツノマタや布海苔といった海藻を煮出して作られる糊やスサを加えて作られます。
鞆では、この漆喰に松煙墨を混ぜて灰色に仕上げたものや、黄色い粘土に蠣灰とスサを混ぜて作られる黄大津と呼ばれる黄色の外壁が見られます。

白漆喰

白漆喰と灰漆喰の建築物

灰漆喰

黄大津

瓦工事の技

鞆の町家は、どの建物も瓦が葺かれています。鞆で使用されている瓦は燻し瓦と言い釉薬を使用せず焼いたもので、主に四国の菊間、讃岐地方の瓦が使用されています。

鞆でみられる瓦の葺き方

鞆で見られる瓦の種類は、本瓦と桟瓦の2種類です。これらの瓦は、時代や窯元によって寸法が違います。

鞆では

鞆では、古い瓦も再利用されており、一つの建物に寸法が違う瓦が使われていることもよくあります。

本瓦

本瓦葺きの方が歴史が古く鞆では明治末期以降から徐々に桟瓦が使われていきます。

桟瓦

古い桟瓦は瓦の山になった部分が三角形に尖っており、鎬付きの桟瓦と呼ばれています。

金物


金物の技

江戸時代や明治時代の建物には、「和釘」という日本古来の釘が使われています。古くは法隆寺の金堂にも使用され、神社・仏閣などさまざまな建物に使われています。現在の主流となっている断面が丸い洋釘とは異なり、一本一本手で叩いて作られる和釘は四角い断面を持っており、木造船をつくる時に使用される舟釘とよく似ています。

古くから鉄鋼業が盛んだった鞆では、舟釘をはじめさまざまな鉄製品が作られてきました。「和釘」を始め建築に利用される「鎹」などの金物も鞆で製造されていた可能性があります。
鞆鍛冶については、福山市鞆の浦歴史民俗資料館でさらに詳しく知ることができます。

耐震

耐震対策

伝統的建造物群保存地区では、昔ながらの建物の外観を維持しながら、建物の耐震性を確保していく必要があります。また、現在の建物と違い、昔の建物は地震の時には、揺れに抗わず、建物自体を多少変形させることで、地震の力を吸収し倒壊を防ぐようになっています。耐震に対する考え方の違いを理解しながら対策を施すことが重要です。

建物の健全化

伝統的建築物の中には、風雨による腐食やシロアリの食害などによって、柱や梁といった構造、外壁や屋根など建物の色々な部分が老朽化したものがあります。それらの傷んだ材料を取り換え正常な状態に戻すことが耐震化の最初の一歩になります。

屋根の軽量化

昔の建物の屋根瓦は、瓦の下に土をしいて勾配や全体の形が整えられています。そのため、建物上部が非常に重くバランスを崩しやすくなるため、地震による倒壊が起こりやすくなります。この瓦の下の土を取り除くことで、耐震性を高めることができます。

壁の増設

建物の壁には、風雨を凌いだり視線を遮る役割の他に、地震などの際に建物に加わる横方向の力に耐えることで、建物が倒壊するのを防ぐ役割があります。そのため、建物の壁をバランス良く増設することは耐震性を向上させるうえで非常に有効です。

建物を地震から守る3つの要素

いろんな角度から地震に備えよう!