一年を通しほぼ毎月のように祭りが行われる鞆の浦。「鞆ほど祭り好きがぎょうさんおる町は、そうそうないどー」と、ちょっと誇らしげに話してくれる町の人たちを見れば、祭りや神事が暮らしの一部として当たり前に、そして大切に受け継がれてきたことが分かります。日本人は古来より、普段通りの日常を「ケ」の日、祭礼や年中行事などを行う日を「ハレ」の日と呼び、日常と非日常を使い分けていました。ライフスタイルの変化によりこの境目があいまいになりつつある今なお、ハレとケが生活の中に自然と息づいている鞆の浦。「祭り」は、よく働き、よく遊ぶ、鞆っこの気風の良さを最も感じられるときかもしれません。厳かな空気の中で行われる「お弓神事」、海上で繰り広げられる「観光鯛網」、巨大な松明を担いで神社の石段を登る「お手火神事」など、歴史的な価値を持つ祭りや全国的に知られるイベントも多く、のどかな港町が一丸となって盛り上がる様は必見です。


お弓神事 – 旧正月を祝う真冬の風物詩/2月第2日曜日

『沼名前(ぬなくま)神社』の境内にある『八幡神社』の例祭。凛と張り詰めた冬の空気の中、「ねーろた、ねろた」の囃子言葉が響き渡ります。約28m先にある標的を目掛け弓を引くのは、烏帽子(えぼし)に素襖(すおう)姿が勇ましい2人の弓主。過ぎた一年の悪鬼を祓い、一年の平穏無事を祈る矢は、“甲乙なし”という意味の文字が墨書された的に向かって放たれます。静寂の中に響く弦音に耳を澄ませば、身も心も清められていくようです。

悪鬼を祓い、一年の平穏を願う矢を放つ「お弓神事」

鞆・町並みひな祭 – まち全体が華やぐ桃の節句/2月中旬〜3月下旬頃

鞆の浦の商家に伝えられた豪華な七段飾りや絢爛豪華な御殿飾りを展示する『福山市鞆の浦歴史民俗資料館』、古今雛がずらりと並ぶ国重要文化財の太田家住宅のほか、町内約100ヵ所の民家や商店、お寺などに代々伝わる雛人形が展示されます。期間中は、常夜燈界隈をライトアップする「鞆の津 宵びな」や「ひな菓子づくり大会」など特別イベントも開催。

潮待ちの港に春を呼び込む 「鞆・町並ひな祭」

鞆の浦観光鯛網 – 海上で繰り広げられる勇壮な鯛しばり網漁/5月上旬〜下旬ごろ

江戸時代初期に生まれた「鯛しばり網漁法」(福山市無形民俗文化財)という伝統的な漁のスタイルを再現する鞆の浦の一大イベント。約50人の船団がひと組となり、色鮮やかな大のぼりを掲げた6隻の船で海に乗り出す姿は壮観! 伝統的な漁を船上から間近に見学でき、漁を終えた後はその場で捕れたての鯛を購入することができます。

大漁、大漁! 海上で繰り広げられる勇壮な「鯛しばり漁」

STORY2 鯛 大漁の桜鯛が告げる初夏の訪れ

福山鞆の浦弁天島花火大会 – 初夏の夜空を染める大輪の花火/5月の最終土曜日

江戸時代から瀬戸内で最も早い花火大会として賑わってきた花火大会。弁天島から打ち上げられる大輪の花火は迫力満点で、夜空だけでなく夜の海も鮮やかに染めます。打ち上げ前には地元有志と子どもたちによる伝統芸能「アイヤ節」の披露もあります。

初夏の訪れを告げる風物詩「福山鞆の浦弁天島花火大会」

茅の輪くぐり – 大きな輪をくぐり罪や穢れを祓い清める/6月30日

各地の神社で行われる「夏越の祓え(なごしのはらえ)」が、『沼名前神社』でも行われます。茅(ちがや)で編まれた大きな輪をくぐって罪や穢れ、災厄や疫病を祓い清めます。神事で使われた茅の輪はほどかれて町民に分配。家々の玄関先にはこの茅を編み直した小さな茅の輪がぶら下がっているのを見ることができます。

大きな輪をくぐって罪穢れを祓い清める「茅の輪くぐり」

お手火神事 – 鞆のまちが真っ赤に燃え上がる火祭り/7月第2日曜前夜

現在の『沼名前神社』である『祇園宮』の祭神・須佐之男命(すさのおのみこと)の神輿渡御(みこしとぎょ)に先立って行われる、旧暦6月4日の祓いの行事。神木の天木香樹(むろのき)と青竹を縄で縛った、長さ4.5m、重さ200kg以上の大手火(お手火)を頭から水をかぶった氏子衆が担ぎ、神社の大石段をかけ上ります。その勇ましく威勢の良い姿と熱く燃え盛る炎は圧巻です。

燃える大手火を担いで無病息災祈願!「お手火神事」

渡御・還御祭 – 平地区が熱くにぎわう淀媛神社の祭礼/8月第1土・日曜日

平地区にある『淀媛(よどひめ)神社』の例祭。以前は、祭りの前日に祭り団子が作られていたことから「ダンゴ祭り」とも呼ばれています。太鼓のリズムと囃子に合わせて神輿が巡業し、はっぴ姿の男たちが真夏の鞆の浦を盛り上げます。祭礼の日が旧暦7月7日であることから、町内には七夕飾りも飾られます。

神輿が廻る、宙を舞う!「渡御・還御祭(淀媛神社例祭・ダンゴ祭り)」

八朔の馬出し – 子どもたちの健やかな成長を願う馬の行列/旧暦8月1日に近い日曜日

子どもの誕生を祝って白い馬の模型をつくり、車輪のついた台に乗せて町中を引き廻す、全国でも極めて珍しい行事。江戸時代から現代のものまで大小さまざまな「八朔の馬」の行列が風情豊かな町並みの中をゆっくりと進み、子どもたちの健やかな成長を願います。

秋祭り(渡守神社例祭) – 一年で最も熱気にあふれる3日間/9月中旬の金・土・日曜日

『沼名前神社』の摂社である『渡守(わたす)神社』の例祭で、地元では「おおまつり」と呼ばれています。旧鞆7町が輪番で当番を務め、渡守神社から当番町への神輿渡御(とぎょ)、当番町での御旅所(おたびしょ)祭、当番町から神社への還御(かんぎょ)祭とさまざまな行事を実施。最終日にはチョウサイと呼ばれる山車が引き廻され、「チョウサイじゃぁ〜! チョウサイじゃ!」という掛け声とともに、町中が熱気に満ちあふれます。

潮待ちの町が大いに賑わう3日間「おおまつり(秋祭り)」

ふいご祭 – 冬の神社が出店と参拝者でにぎわう夜/12月の第1土・日曜日

旧鞆7町のひとつ、鍛冶町の中心にある『小烏神社』で行われる例祭。ふいご(鞴)とは鍛冶の道具である送風器のことで、船具類の鍛冶が発展した鞆の浦では、鉄鋼業の祭礼として行われてきました。前夜祭には夜店が並び、鉄鋼関係者をはじめ地元の参拝者で賑わいます。