「潮待ちの港」として栄え、時代とともに独自の発展を遂げた鞆の浦。江戸時代に福島正則が城下町として整備した地割に、伝統的な町家や社寺、石造物、港湾施設などが一体となって残る町並みは、2017年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。『太田家住宅』や『鞆の津の商家』といった江戸時代の町家、明治以降の洒落た近代建築など新旧が溶け合い調和しているのも、港としてさまざまな情報や文化が行き交った鞆の浦らしい風景です。迷路のような路地をぶらりと歩きながら、自分だけのお気に入りのスポットを探してみましょう。


ノスタルジックな路地裏を散歩

かつては全国でも有数の過密都市だった鞆の浦。江戸時代ごろに建てられた歴史ある建造物も数多く残されており、趣きある町家や商家が隙間なく軒を連ねています。迷路のような路地を歩けば、ユニークな模様を描くなまこ壁やパッチワークのような石垣、時代を感じる漆喰の壁があちこちで見られます。細い細い路地を抜けた先に青い海が広がる……。そんな嬉しい出会いも港町ならでは。

城下町を守るお寺が連なる『寺町筋』

鞆の浦の地図を見てみると、町の北側にお寺が密集しているのに気づくはず。江戸時代初期に鞆城を築いた福島正則が、城下町整備の一環として寺町通りを造営したことをきっかけに、各宗派のお寺がずらりと連なり、『沼名前(ぬなくま)神社』の参道へとつながっています。小さな町の中に19のお寺と数十社の神社が点在しているので、神社仏閣巡りにはもってこい!

城下町を守るお寺が連なった 「寺町筋」

江戸や明治の時代から変わらない『重要伝統的建造物群保存地区』

江戸中期までに整えられた地割に、伝統的な町家や寺社、石垣などの石造物、港湾施設などが一体となって残る瀬戸内の港町としての歴史的な趣が高く評価され、2017年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。地区内には、江戸時代から戦前までの伝統的建造物が約280棟あり、これほど多くの軒数が残っている地域は全国でもかなり珍しいとか。

港町の面影を今に残す「福山市鞆町伝統的建造物群保存地区」

木造建築の自由な発想を今に伝える『鞆の津の商家』

江戸時代末期に建てられた商家らしい間取りの母屋と機能的な土蔵が、当時の鞆の町家の典型であるとして、市の重要文化財に指定されている『鞆の津の商家』。向かい側の駐車場から外観を眺めれば、土蔵が主屋を突き破るように建っているのに気づくはず。この土蔵は江戸時代末期の米蔵を明治期に移築したもので、自在に姿を変えていく木造伝統家屋の面白さが詰まっています。

保命酒(ほうめいしゅ)誕生の地『太田家住宅』

1655年に大阪から鞆に移り住んだ漢方薬医・中村吉兵衛が、保命酒の醸造を始めた地であり、その興隆を現在に伝える歴史的建造物。保命酒づくりで栄えた中村家は、江戸時代に醸造販売権を独占し、当時は鞆の経済の中心といえる場所でした。尊王攘夷派の公卿7人が鞆の浦に立ち寄った際に、宿泊したのもこの屋敷。その後、廻船業を営んでいた太田家の所有となりましたが、主屋や炊事場、保命酒蔵が見事に保存されており、1991年に国の重要文化財に指定されました。

STORY1 保命酒 鞆の浦に江戸時代から伝わる薬味酒
鞆の薬味酒・保命酒はここで生まれた!「太田家住宅」

福山城から移築された『岡本家長屋門』

保命酒製造元のひとつである『岡本亀太郎本店』が店舗として使っているのは、旧福山城郭内にあった長屋門。1873年、福山城が廃城になったときに移築され今に至ります。福山市指定重要文化財のひとつ。

岡本亀太郎本店