鞆の浦の名産といえば、何と言っても「保命酒(ほうめいしゅ)」。保命酒とは、もち米を原料とした原酒に13種類(現在は16種類)のハーブを漬け込んだ和製リキュールのこと。とろけるように甘く優しい口当たりと、薬味の滋味深く爽やかな香りを楽しむことができます。江戸時代に大坂(阪)からやってきた漢方医の中村吉兵衛が造ったといわれており、福山藩の重要な産物として藩の財政を潤し、ペリー来航の際に供されました。現在は鞆の浦にある4軒の蔵元で醸造されています。
漢方医が考案した薬味酒
保命酒造りのはじまりは1659(万治2)年。
漢方薬を研究していた現大阪の漢方薬医、中村吉兵衛が薬法をもとに醸造を開始したといわれています。
肉桂(にっけい・ニッキ)・甘草(かんぞう)など十三種類のハーブと、もち米・麹・焼酎の三味を調合し漬け込む製造方法は、現在もそのまま受け継がれています。
保命酒づくりは途中まで本味醂(みりん)と同じ工程をたどるため、保命酒と本味醂の両方を醸造している蔵元もあります。
贈答品として愛されていた銘酒
味醂(みりん)をベースに薬味を漬け込んだ保命酒は、清酒と違って腐りにくく長期保存も可能なので、贈答用としても重宝されました。
保命酒を入れる徳利(とっくり)もさまざまに考案され、岡山県の備前焼をはじめ、兵庫県の三田焼や愛媛県の砥部焼など西日本の焼き物に徳利を特注していたようです。
そのうち福山藩の奨励もあり、江戸末期には福山市引野町の皿山焼、岩谷焼、鞆の浦の梅谷皿山焼などの徳利を利用しました。
これら江戸時代の保命酒徳利の中には、絵付けが華やかなもの、備前焼の献上徳利などもあり、鞆の町では現在も家や店舗の軒先に徳利をディスプレーしている光景が見られます。
蔵元ごとに異なる独特の滋味を愉しむ
現在、鞆の浦には4軒の保命酒屋が醸造を続けています。
「入江豊三郎本店」「岡本亀太郎本店」「八田保命酒舗」「保命酒屋」の4軒がそれぞれ独自の調合と味をもって、江戸時代から続く保命酒の歴史を受け繋いでいます。
鞆の浦の店舗ではもちろん、福山市内では酒店をはじめ地元の百貨店やスーパーなどでも販売されており、身近なお酒として市民に愛されています。
実は甘くて飲みやすい! アレンジ次第でカクテルに
薬味酒としてのイメージが強い保命酒ですが、口当たりは極めてまろやかで飲みやすく、福山市では保命酒を使用したスイーツも多数開発されています。
辛党の人ならストレートでキュッと飲むのがいいと言うかもしれませんが、サイダーで割るとフレッシュに、ミルクで割るとデザートカクテルのような味わいに変化。
健康酒であることは間違いありませんが、毎日でも気軽に味わうことができる保命酒。江戸時代の港が残る町、鞆の浦だけで造られるお酒を愛飲しているなんて、ちょっとオツじゃありませんか? お土産にはもちろん、自分への粋な贈り物にもぴったりですよ。