鉄工団地と呼ばれる鞆の工場群の中で、1951年に船具製作所として設立した『株式会社 三暁(さんぎょう)』。鉄工団地内の錨(いかり)製造工場を引き継ぎ、最新鋭の設備を用いた精密加工技術と、伝統的な自由鍛造技術を組み合わせて様々なものづくりをしています。錨工場の見学も可能。熟練の職人が金属を熱で溶かし、ハンマーなどで叩く迫力ある鍛造の現場を間近に見ることができます。


ものづくりの原点に挑む美しき職人の姿

ガーン、ガーン、ガーンという轟音とともに飛び散る火花。間近に迫る花火のようで、恐ろしくも美しい瞬間です。錨作りの基礎となる自由鍛造とは、熱した金属をハンマーなどで叩いて圧力を加え、強度を高めながら形を整える技術のこと。1,000度以上の熱で赤く溶けた鉄を叩く姿は荒々しい反面、熟練職人ならではの繊細さも感じられ、伝統工芸品を作っているのを見ているかのような気分になります。

1951年に船具製作所として設立した『株式会社 三暁(さんぎょう)』。ここ30年は工場も近代化が進み、最新鋭の設備を用いた精密加工技術を活かした特殊な金具を製造しているそうです。ところが2016年に、同じ鉄工団地内で高い技術を持ちながらも高齢化のため廃業することになった錨(いかり)製造工場を職人ごと引き継ぐことに。

代表取締役の早間寛将さんはこう語ります。「漁業の衰退や海外製品の流通、後継者不足により自由鍛造で錨を作る工場はどんどん減っています。人の手による鍛造技術が失われていく……。それなら自分たちでやるしかないという自然な流れでした」。創業当時は船具を作っていた『三暁』にとって、これは原点回帰でもあるのかもしれません。

現在は、ベテランの職人について20代の若手職人が修業中。受け継いだ自由鍛造の技術を絶やすまいとするその挑戦はスタートしたばかりです。早間さんの話を聞きながら職人さんの姿を見ると、伝統を守ることの難しさと尊さ実感すると同時に、鉄を叩く作業が神聖な儀式のようにも見えるから不思議です。

伝統と革新の融合から生まれた家具「TAonTA」

隣町の家具メーカーから依頼を受けたことをきっかけに、家具の生産にも挑戦している『三暁』。自由鍛造の技術を家具作りに活かしたいという早間さんの想いからオリジナル家具ブランド「TAonTA」が生まれました。フィンランド語で「鍛造」を意味するこのブランドは、精密部品を作るハイテク技術と錨作りのローテク技術を融合できる『三暁』だからできたもの。

鍛造アイアンを使っているため、一見華奢に見えるイスでもずっしり重く、安定感があります。アイアン部分は人の手で鍛造したからこそ、表面にデコボコ感があり、金属なのにあたたかみすら感じます。伝統技術を活かした自由な発想で、今後どんなモノがこの工場から生み出されていくのか……目が離せません!


株式会社 三暁 第三工場
住所/広島県福山市鞆町後地26-31 ※見学は錨を製造している第三工場のみ
電話/084-983-5551
工場見学/毎週火曜日(10日前までに要予約)※撮影禁止
駐車場/あり
https://taonta.jp