鞆の浦は、瀬戸内海沿岸のほぼ中央に位置する港町。
目の前には、潮の流れに乗って回遊する魚たちが集まる、豊かな海が広がります。
桜の咲く頃になると、鮮やかな赤色に輝く桜鯛(マダイ)が産卵のために鞆の浦の海に戻ってきます。江戸時代初期から地元の漁師たちはその鯛を「鯛しばり網漁法」という大規模かつユニークな方法で漁をしていました。
鞆の浦では毎年5月ごろ、この伝統的な漁を再現した観光鯛網が行われます。瀬戸内に残る伝統漁を船上から間近に見学できるとあって、毎年多くの観光客が訪れます。
捕れた鯛はその場で即売されます。捕れたて新鮮な味わいを家庭でお楽しみください。
江戸時代に生まれた漁法「鯛しばり網」
鞆の浦に300年以上前から伝わる漁法「鯛しばり網」。その歴史を現代に残そうと、1923年にスタートしたのが鞆の浦の初夏の風物詩、「観光鯛網」です。
約50人の船団がひと組となり、「指揮船」、「親船(真網・逆網)」2隻、「錨船」2隻、捕れた鯛を運ぶ「生船」の計6隻で、鞆の浦沖に繰り出します。
鯛網で使用する網は長さ1,500m、幅100mにも及ぶ巨大な網。2隻の船で潮の流れに合わせて大きな網を広げて、鯛を取り囲んだところで網を縛るように船を交差させ、素早く網を引き上げれば……「大漁、大漁ぉ!」。
揚がった鯛はその後すぐ親船で販売され、まさに捕れたての桜鯛を購入することができます。
この「鯛しばり網漁法」は2015年、福山市の無形民俗文化財にも指定されました。
「大漁、大漁!」威勢のいい掛け声が海に響く
観光鯛網の魅力といったらやはり、まるで海上絵巻のような荒々しさ、勇ましさ。
漁は鞆の浦の対岸に浮かぶ仙酔島・弁天島の沖合で行われ、乙姫様による「弁天龍宮の舞」で幕を開けます。うっとりするような雅な舞のあと、真っ青な法被(はっぴ)を羽織った船団が豪快に船を走らせるのです。
その海上絵巻を彩るのが、船団である漁師たちの威勢のいい掛け声。
「ゆんでほーじゃ、ゆんでほーじゃ」と船を漕ぎ出し、
「ありゃーよーほいやーでしょーのー」と網を入れ、
「えっとーえっとー、やっはーせーえー、やっはーせーえー」と網を縛り、
「よーちょいよーちょい、大漁、大漁」で漁を終える。
思わずこちらも声を上げ、一緒に大漁を祈願します。
初夏の美しき景観の中に見る、鞆の浦の歴史の一片。町の歴史と伝統を真に大切に受け継いでいる鞆の浦ならではの風物詩に、感動以上のものを覚えます。
漁を終えた船が海上で鯛の即売所に!
観光鯛網が行われるのは毎年5月末のゴールデンウイークごろから約1ヵ月間。
まずは仙酔島まで渡船で渡り、観覧船でクルージングを楽しみながら間近で鯛網を見学することができます。
希望すれば、抽選で「親船」に乗っての網引体験が可能。遠慮せず、ぜひ名乗り出てくださいね。
観覧料は一般2,800円、小中学生1,400円(福山駅からのバス付き観覧券もあり)。
観光鯛網の終了後は、約1時間の鞆の浦史跡めぐりも行われるので、新緑の山々と青い海を眺めながら、歴史の町のそぞろ歩きをお楽しみください。
鞆の浦観光鯛網|福山観光コンベンション協会
http://www.fukuyama-kanko.com/travel/taiami
鞆の浦で親しまれる鯛料理
鞆の浦観光でぜひ食べたいのが、鯛料理。鯛でダシを取り、身を入れた「鯛そうめん」や、鯛とご飯を一緒に炊き上げる「鯛飯(たいめし)」、鯛の身入りの「鯛茶漬け」をはじめ、鯛のお頭を煮付けた一品料理など、鞆の浦には鯛を使った料理を提供する飲食店がいくつかあります。その上品な味わいをぜひ楽しんでみてください。